寺山修司作品の盲人書簡<少年倶楽部編>を実験演劇団◉万有引力が演じる舞台の初日に行ってきました
寺山修司さん作品の盲人書簡<少年倶楽部編>をJ.A.シーザーさんが主催の実験演劇団◉万有引力さんが開催する事を知り初日に行ってきたレビューとなる。
チケット販売前の数か月は前にたまたま何かで情報を知りチェックしていたのだが、いざ販売開始となると人気ですぐに完売の日が出たりしたが(特に土日に集中していたように見えた)俺は無事に狙いの初日の2022年5月27日公演を取る事が出来た。ちなみにのちに追加座席も販売されたのだが現在はすでに全日完売している(キャンセルが出た場合は当日券が出る可能性もあるとの事)
 
実は個人的な経験上で演劇はまだ観た事が無かったのでザ・スズナリさんにも初めてお邪魔した。
下調べで写真で確認はしていたものの、凄く趣があり歴史を感じる会場だと感じた。
一階は他にもお店がある様子だったが中までは入っていかなかった。
18時頃に迷いながらも到着したのだが時間がまだ早くここにいると邪魔になってしまうので、場所は確認が出来たし当日は何も食べていなかったので食事をする為にいったん引き上げる事にした。
 
演劇を観るのも初めてだったので勝手がわからないので、開場時間少し前に再度訪れて並び入場したのだがこれが見事に功を奏する。
自分自身の備忘録も兼ねているのでここからは何がどうとかの話となるのだが、盲人書簡のネタバレも含まれるので自己責任において読み進めて頂きたい。
 
入場
予定時刻の18:30になると開場のアナウンスがされたので階段をあがっていき、所持しているチケットを受付にて提示し半券をもぎ取る事で入場が出来るようなシステムになっている(現在はコロナ禍の関係か受付で見せて確認OKになったら自分で半券をもぎ取り指定された回収箱に入れる仕組みにもなっている)
 
緊張しながらも入ってみると、客席もすでにそこそこに暗く青と橙色のライトで絶妙な世界観を演出していてうっすらな明るさである。これも演出の一つなのだろうかと自分の座席に注意しながら行くとフライヤーが用意されていた。
※写真は実際のチケットも写っている
このフライヤーを読もうと思ったのだが暗くて読むことが出来ない。それも演出の醍醐味だろうと早々に諦めて舞台上の状態を見てみる。
やはり暗い。
色は青ベースで美術品として階段、網、段差、でかい絵(うろ覚えだが少年倶楽部と記載されたように思う)などなどがあるのがわかる。そして、その網の向こう側の下に布がいくつも置いてあった。
かのように見えたのだが、初めての事もあり色々な所に目がいっていたのでこの時は布には注目していなかったのであるが、この正体を5分後ぐらいには知る事となるがこの時はまだ気づいてもいなかった。
 
舞台上の違和感
一通り舞台や天井やらお客さんの入りとかを見て暇をつぶしていると舞台上が何かおかしい事に気付いた。最初に見た時と違う気がしてならないのである。
「あれ?なんか変わったような気がするけどなんだろう。照明の色でも変わったのか」と思った。
ちなみに間違い探しは得意とまではいかないが好きなので、何に対して違和感が出たのか調べようと思い観察していると、ふとさっきの"布"が違う形になっていたようなのである。これはホラーである。
なので、気になったのでその"布"を観察しているとやはり非常にゆっくりとだが動いている。布が動くとはまたまたホラーである。そのまま"布"は動き縦に伸びた状態となり"形"になると判明した。
そう、"布"と思い込んでいたのは「人」だったのである。
 
開演前のパフォーマーの観察
そのまま観察していると非常にゆっくりとだが動いていて、さきほどよりかは動きが早くなった(それでもゆっくりなのは変わらない)
何かが起こる前を予感するような音楽、照明の怪しさ、舞台セット、そして奇怪な動きをしているのだがすべてを含めてこの時点でも素晴らしい。いわゆる無言劇というのだろうか。
魅了されているとまだ網の向こう側である。網は箱になっているのかと思ったらそうではなく、2つの網戸を三角形のようにしている(紙相撲の形をしていると想像してもらえるとイメージが付くかもしれない)その為、後ろはあいているのである。
そう、後ろがあいているので後ろから出る事が可能なので網の奥で蠢いたが網の横に出てきてしまった。「出てきちゃったけどこれこのまま前まで来たりするのだろうか」とまるでリングの貞子がテレビから出てきてしまった時のようなホラー感を抱きつつ観ていたのだがやはり前に出てきた。このパフォーマンスにはホラー感もあり魅了されたので素晴らしい無言劇だった。また、他にも階段上にも別のパフォーマーが出てくるようになったり引っ込んだりしていた。
 
演劇にきた実感
この時点で寺山修司さん作品らしい演出やメイクと服装をした劇団員さんを観ているので「俺は演劇を観に来ているのだ」という実感が湧いて俺の舞台経験はもうすでにはじまっているという認識をした。演劇時間は85分との事だったが、自分にとっては30分前の入場してから実質その世界がはじまっているので115分でもあると思った。
 
暗転
開演前のパフォーマーさんがいなくなると、やがてBGMが大きなっていきBGMが鳴り止むのと同時に完全に真っ暗となる。目を開けているのにも関わらず真っ暗なのである。一瞬目を開けているのか、閉じてしまっているのかさえわからなくなる。それぐらい真っ暗なのである。いや、闇といった方が適切なのかもしれない。以降は真っ暗(暗転)を闇と表現する事とする。
完売してほぼ満席状態で座席の距離が近いのですぐ両隣には人がいたはず。「はず」と不安を覚えるぐらいの闇なので前/後/横も一切何も見えない。
それにしても無音+闇が長い。いや、実際には無音+闇に慣れていないせいか少しの時間(1分以内かも)なのかもしれないがやけに長く感じた。
不安になりはじめた頃、それは唐突に起こった。
 
劇が始まる
闇になっている時間に不安を覚えていた頃に、突然「あっ!!」という大きな声と同時に一瞬だけ光が刺す。自分の目は開いている事を実感し安心した気持ちを覚えたが、それと同時に盲人書簡の舞台が始まったのだ。と、自分の目は正常だった安心感とこれからどのような物語を見せてもらえるのかという気持ちが高鳴る。
舞台は実に芸術的である。
でかい絵、階段、箱のような物、網などあり他にもシーンによって追加されたり場所が変わったり内容が変わったりする。これだけではどんな状況かはわからないだろう。そうなのである。説明が難しいのが寺山修司さん作品でもあり、今回の演出/音楽のJ.A.シーザーさん、構成/共同演出の髙田恵篤さんの芸術的センスである。
明智小五郎、少年探偵団、犬神博士と聞き慣れた名前もセリフで出てきて、犬神博士がで少年探偵団の小林芳雄の目を手術したが治す事が出来なかったので盲目(舞台上の表現では別だがここでは盲目とする)になってしまったという所から物語が始まる。
 
観る所が多い
物語は進んでいくがセリフを喋っている人以外でも観るところは多い。舞台上には演出として様々な見せ方をしているからだ。
目移りするとはまさにこの事である。舞台を観に来たのが初めてという事もあるのかもしれないが目眩く演出の凄さに圧倒された。
 
セットの転換
物語が進んでいくと節目で闇が訪れる。凄いのが、闇から明けると舞台上のセット/人が結構変わっていたりする。
当然劇団員さんも同じ条件の闇の中で美術品を変更し(しかもあまり音が出ないように気を使っていたのがわかる)、さらに自分が出番の方はその立ち位置につくのであるが舞台は平坦ではないのでこれには毎回のようにかなり驚かされた。ふと、暗視スコープを使用しているのかもしれないと思ったが世界観に浸りたいので野暮な事を考えるのは止めた。
例えば、ドリフの丸ごと変えるという事ではなく(わからない世代の方はごめんなさい)、その土台はそのままで闇の中で変更している凄さは全体リハを相当にやり込まないと出来ないだろうし、美術品の破損、人同士でぶつかる、ケガさえしてしまう可能性もあるだろう。それを完璧にやっているのでプロフェッショナルさを感じた。
 
声
パフォーマーさんはマイクを使用していないので地声である。俺の座席はI列で舞台からすると後方であったのだが声が聞こえづらいという事は一切なかった。各人の個人練習、全体リハで客席側でどう聴こえるかというのもPAさんが綿密にやっていたに違いない。
 
美術品
様々な美術品を使用したりもするが、個人的には「月」と「マッチ」が良かったがこれだけなら何がなんだかわからないとは思うが観た人だけわかると思う。これから観る方もいるとは思うのでこれ以上は記載しないでおく。
 
光
PAさんが操る照明の色彩、線の光、物語にそった切り替えもズレなく絶妙なタイミングで素晴らしかった。また、舞台中のパフォーマーさんも自ら手持ちのライト、マッチで光を操り魅せてくる。
 
音楽/音
その物語シーンにおいて観てる側が世界により入り込むようなJ.A.シーザーさんの音楽は素晴らしく、パフォーマーさんが出す音もあるので楽しめる。
それと、スピーカーからの音楽/音の音出し、音やめタイミングも良くPAさんの操作/演出に脱帽。
 
映像
映像も舞台奥の壁に映るようにプロジェクターを使用しての演出がある。パフォーマーさんや美術品もある中なのでこれは正直な所見え辛かったので内容はほとんど覚えていないのだが(どんな描写だったなど)、あえてそういう演出として使用されていた。
 
セリフ
物語の大筋はわかるが、寺山修司さん作品なのでその言葉はパッと聞いてわからない事も多い。さらには、時間をかけた上でもわからない事もあったりするので難解だがその響きや言葉が理屈抜きでかっこよく感じたなら個人的にはそれ以上は野暮というものあると思っている。
 
全体的な感想
前述で諸々と思いを記載したので重複するのでここでは簡潔とするが、入場からその世界にどっぷりと浸かり、素晴らしきその世界観を堪能する事が出来たので人生の経験で素晴らしい一日となった。
天井桟敷解散後にJ.A.シーザーさんが主催者で作られたのが実験演劇団◉万有引力(確かそうだった気がする)
昔から寺山修司さん作品は好きなので音楽を担当されていたJ.A.シーザーさんのCDもいくつか持っていたし(現在は実家にあるはず)、演劇を生で体感して肌で感じるとこんなにも素晴らしいものなのかと改めて感じた。今後も万有引力さんの演劇は都合がつく限りは参加していきたいと思う。
まだ本記事の公開日時では劇団公式HPでは告知されていないが、来年の2023年2月3日~12日までの開催予定で草迷宮たずねて母の迷宮三千里を行うとフライヤー裏に告知がされている。次回公演も都合がつく限りで是非とも行かせて頂きたいと思います。
斯くして、個人が何に価値を見出すかも千里の道も一歩から。
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